Follow Us

現代社会学科

#現代社会学科

【現代社会学部】環境政策ゼミ卒業論文まとめブログ(2):京都府における排出量取引制度 —東京都の排出量取引制度と比較して—

 
2024年3月 岩本桃果 (2023年度卒業生)

こんにちは。卒業生の岩本です。梅が咲き始めましたね。私は先月ようやく卒論を提出してほっとしているところです。さて、今回はその卒論の内容をかいつまんでご紹介致します。少し専門的な内容ですが、環境政策ゼミは「こんなこともやっているんだ」ということをご理解頂く上でご活用頂ければ幸いです。(なお、途中ところどころ指導教官の諏訪先生が加筆した部分があります。)

近年、地球温暖化の緩和策として排出量取引が注目されています。排出量取引制度とは、企業・国などが温室効果ガスを排出することができる量を定め、排出枠(キャップ)を超過する場合には排出量が少ない企業・国から排出枠を購入できるようにする取引です。この取引により、企業・国などが全体で温室効果ガスを削減したとみなしています。企業Bの余剰分の排出枠を企業Aに譲渡するというような形です(図1)。

図1 排出枠の設定と取引のイメージ


出典:環境省(2013年)「国内排出量取引制度について」

排出量取引制度は、EUをはじめ世界的に導入されており、日本では東京都や埼玉県で導入されています。2026年度からは日本全体で排出量取引制度が実施される予定です。東京都と埼玉県は排出量取引の運用を連携しており、一定の成果を収めていますが、その他の自治体として、京都府も独自の排出量取引制度を実施していますが、排出量取引への参加企業の数が少なく排出量削減量は東京や埼玉よりも小規模です。

では、なぜ排出量取引制度による効果において東京都・埼玉県と京都府とで違いが出ているのでしょうか?卒業研究としてヒアリング調査を行った結果をご紹介します。

ヒアリング調査
私の卒業研究では、排出量取引制度における運用体制の現状を把握し、ガバナンス面での違いを比較し考察するため、東京都と京都府へのヒアリングを実施しました。

ヒアリングの結果は以下のことがわかりました。
そもそも、東京都の排出量取引制度は都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(環境確保条例)の裏付けがあり、対象もオフィスビルや工場等の約1200事業所と広範囲です。2010年の制度発足から毎年温室効果ガス排出量の削減に貢献したとされています。
ただし、単に条例だから、というだけで効果が上がっているわけではありません。
まず制度構築の段階で、事業者や専門家とコミュニケーションを取って調整していたそうです。制度発足当初は、事業者サイドも排出量取引制度についての理解が不十分であり、誤解や認識の違いがあったようですが、東京都環境局を中心としたスタッフが何度も説明をし、理解や認識の違いを埋めるようなコミュニケーションを取っていたそうです。
注目すべきは、東京都では、現在専用の相談窓口が設置されており、事業者からの質問や相談に対応する体制が整っている点です。なお、排出量取引はあくまでも排出量を履行するためのひとつの手段という位置づけなので、窓口では排出量取引以外にも省エネ対策等の自主的な排出量削減の方法も案内しています。

一方、京都府の排出量取引制度は中小企業をメインターゲットとしており、キャップの設定はありません。キャップを設定しなかった理由は、厳しいキャップを否定的にとらえる事業者が近隣の府県に事業を移すカーボンリーケージをおそれたためです。
京都府が事務局をつとめる京都環境行動促進協議会が設置されており、クレジット(排出量削減の取り組みにより得られる温室効果ガスの削減量や吸収量のこと)創出の認証などを行っていますが、専用の相談窓口の設置などはありません。
ただし、京都府では、「京都ゼロカーボン・フレームワーク」という、中小企業向けの脱炭素化の支援として、金融機関が排出量削減に応じて安い金利で融資するという制度を2023年から導入し、先駆的な取り組みとして評価されています。このフレームワークは、これまでの排出量取引制度なども含めた各種制度があったからこそ、構築できた制度と考えられます。

今後の展望
東京都と京都府の違いは目標値の設定の有無、対象事業者の範囲の相違、相談窓口の有無、事業者とのコミュニケーションの4つです。京都府はあくまでもボランタリーな制度であることから、参加するためのインセンティブがどれだけ事業者に「刺さる」かがカギを握っているかもしれません。
なお、東京証券取引所で2022年9月から排出量取引の運用実験が開始され、2023年10月には「カーボン・クレジット市場」が開設されました。今後は国全体で排出量取引が実施されていく流れがあります。京都府もこれら国の制度に独自のスタンスで関わっていくことが求められるでしょう。

主要参考文献
環境省地球温暖化対策課市場メカニズム室(2013)「国内排出量取引制度について」
https://www.env.go.jp/content/900444398.pdf (2024年2月5日確認)

京都環境行動促進協議会 (京都CO2削減バンク)(2023)「京都版CO2排出量取引制度運営規則 (Ver.5)」
http://www.kyoto-ets.com/uneikisoku_ver5.pdf (2024年2月5日確認)

京都環境行動促進協議会(京都 CO2削減バンク)(取得:2024)「京都版 CO2排出量取引制度のご案内」
http://www.kyoto-ets.com/kyo_ver_pamphlet.pdf (2024年2月5日確認 )

京都府(2023)「京都ゼロカーボン・フレームワーク」
https://www.pref.kyoto.jp/tikyu/enterprise/esg/zcfw.html (2024年2月5日確認)

東京都環境局(2022)「大規模事業所への温室効果ガス排出総量 削減義務と排出量取引制度 「排出量取引入門」」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/large_scale/trade/index.files/torihikinyuumon2022.pdf (2024年2月5日確認)