

問題意識とコンセプト
痴漢・盗撮を軽視していませんか?
私たちは、痴漢・盗撮が軽視されている社会の認識を変えていきたいと思っています。
そこで、痴漢や盗撮に関するアンケート調査をもとに、痴漢・盗撮が社会で軽視されている現状や被害の深刻さについて一緒に考えてみましょう。
痴漢の検挙件数・人員
令和元年 | 令和2年 | 令和3年 | 令和4年 | 令和5年 | |
---|---|---|---|---|---|
検挙件数(件) | 2,789 | 1,915 | 1,931 | 2,233 | 2,254 |
検挙人員(人) | 2,508 | 1,644 | 1,576 | 1,906 | 1,998 |
警察庁生活安全局生活安全企画課「令和5年中の痴漢・盗撮事犯に係る検挙状況の調査結果」をもとに筆者作成
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/bouhan/chikan/R05chikan.tousatsu.pdf
これは、令和元年から令和5年までの痴漢の検挙件数と検挙人員を表にしたものです。被害者の中には誰にも相談できなかった方もいるため、必ずしも検挙件数=痴漢の発生件数というわけではありません。
令和5年の痴漢の検挙件数を詳しくみると、電車やバスなどの乗り物内が1152件で全体の51.1%、駅構内が169件で全体の7.6%を占めていました。
撮影罪(ひそかに撮影)の認知・検挙件数・人員
令和元年 | 令和2年 | 令和3年 | 令和4年 | 令和5年 | |
---|---|---|---|---|---|
認知件数(件) | ー | ー | ー | ー | 2,391 |
検挙件数(件) | ー | ー | ー | ー | 1,203 |
検挙人員(人) | ー | ー | ー | ー | 911 |
警察庁生活安全局生活安全企画課「令和5年中の痴漢・盗撮事犯に係る検挙状況の調査結果」をもとに筆者作成
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/bouhan/chikan/R05chikan.tousatsu.pdf
盗撮に係る迷惑行為防止条例違反の検挙件数・人員
令和元年 | 令和2年 | 令和3年 | 令和4年 | 令和5年 | |
---|---|---|---|---|---|
検挙件数(件) | 3,953 | 4,026 | 5,019 | 5,737 | 5,730 |
検挙人員(人) | 3,166 | 3,024 | 3,501 | 3,982 | 3,749 |
警察庁生活安全局生活安全企画課「令和5年中の痴漢・盗撮事犯に係る検挙状況の調査結果」をもとに筆者作成
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/bouhan/chikan/R05chikan.tousatsu.pdf
これまで、盗撮行為は主に各都道府県が定める迷惑防止条例に基づいて検挙されていました。しかし、迷惑防止条例には地域ごとに規制内容が異なることや、罰則が比較的緩やかで抑止効果が弱いといった問題点がありました。そこで、令和5年に「性的姿態撮影等処罰法」、通称「撮影罪」が新たに施行されました。撮影罪は、他人のスカート内の下着や性的な部位などをひそかに撮影したり、相手の意思に反して性的な部位を撮影したりした場合に適用されます。
東京都の迷惑防止条例では、痴漢行為に対する罰則は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」(条例5条1項2号、8条2項1号)ですが、撮影罪では「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」が科され、未遂でも処罰の対象となります(法第2条2項)。このように、撮影罪の制定により、盗撮に対する処罰もより厳しくなりました。
令和5年の検挙件数を見ると、電車やバスなどの乗り物内での撮影罪による検挙は78件で全体の6.5%、駅構内では265件で全体の22.0%でした。一方、迷惑防止条例違反の検挙件数は、電車やバスなどの乗り物内で322件(5.7%)、駅構内で1174件(20.5%)となっています。
被害者の性別


内閣府男女共同参画局「若年層の痴漢被害等に関する オンライン調査」をもとに筆者作成
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/r060702_houkoku/01.pdf
これは、痴漢被害に遭った被害者の性別を示したグラフです。 被害者の多くは女性ですが、性暴力の問題は必ずしも被害者=女性とは限りません。「男性は痴漢に遭わない」という思い込みは、男性の被害者が声を上げられなくなる要因となります。性別に関係なく、痴漢は誰にとっても恐怖であり、痴漢という問題に関係のない人はいません。
被害後に生じた生活への影響


内閣府男女共同参画局「若年層の痴漢被害等に関する オンライン調査」をもとに筆者作成
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/r060702_houkoku/01.pdf
このグラフは、「被害後に生じた生活への影響」を示したものです。
被害者の中には、外出や電車に乗ることが怖くなったり、フラッシュバックに苦しんだりする人もいます。
痴漢は一過性のものではなく、生活に支障をきたす、日常がガラリと変わるといった深刻な被害をもたらすということを社会全体が真摯に受け止める必要があります。
痴漢被害について、世の中でどのように感じられていると感じるか


内閣府男女共同参画局「若年層の痴漢被害等に関する オンライン調査」をもとに筆者作成
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/r060702_houkoku/01.pdf
このグラフは、「痴漢被害が世の中でどのように感じられているか」を示したものです。
この結果から、「被害が軽くとらえられていると感じる」や「関心を持たれていないと感じる」と回答した割合が6割を超えていることがわかります。
「被害が軽視されている」と実感する被害者が多く存在することは重要な問題です。痴漢は決して軽視してよい問題ではありません。私たち一人ひとりが痴漢は深刻な問題であるという認識を持つことが必要です。
被害に遭ったときに取った対応(複数回答)


内閣府男女共同参画局「若年層の痴漢被害等に関する オンライン調査」をもとに筆者作成
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/r060702_houkoku/01.pdf
このグラフは、「実際に痴漢被害に遭ったときに取った対応」を示したものです。
この結果からもわかるように、痴漢に遭ったときにすぐに対処できる人は非常に少数です。突然のことで何もできなかったり、恐怖のあまり身体が硬直したりする被害者も多くいます。そのため、周囲の第三者が被害に気づき、行動を起こすことが非常に重要です。
周囲の人がとった対応(複数回答)


内閣府男女共同参画局「若年層の痴漢被害等に関する オンライン調査」をもとに筆者作成
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/r060702_houkoku/01.pdf
このグラフは、痴漢被害に遭っている人に対して周囲の人が行った対応を示したものです。
「何もしてくれなかった」割合も少なくありませんが、多くの人が声かけや通報など、被害者を助けるための行動をとったことがわかります。周囲の人のひとつの行動が、被害を止め、痴漢を許さない社会を実現するための第一歩となります。
周囲の人が取った対応の種類とその結果(複数回答)
痴漢行為が続いた | 痴漢行為がエスカレートした | 痴漢行為が止まった | 別の周りの人が気づいて 助けてくれた |
加害者があなたから離れた/逃げた | その他 | |
---|---|---|---|---|---|---|
加害者に働きかけてくれた | 14.1% | 10.9% | 54.3% | 35.9% | 30.4% | 2.2% |
あなたに働きかけてくれた | 13.4% | 7.9% | 40.3% | 16.2% | 36.6% | 3.2% |
警察や関係機関に働きかけてくれた | 8.1% | 0.0% | 45.9% | 18.9% | 40.5% | 2.7% |
何もしてくれなかった | 37.3% | 9.8% | 22.5% | 2.9% | 33.3% | 2.0% |
内閣府男女共同参画局「若年層の痴漢被害等に関する オンライン調査」をもとに筆者作成
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/r060702_houkoku/01.pdf
このグラフは、痴漢被害に遭っている人に対して周囲の人が取った対応の種類とその結果を示したものです。
周囲の人がなんらかの働きかけをした場合は、「何もしてくれなかった」場合に比べて、「痴漢行為が止まった」割合が多く、「痴漢行為が続いた」割合が少ないことがわかります。特に、周囲の人が直接「加害者に働きかけてくれた」場合には、「痴漢行為が止まった」、「周囲の別の人が気づいて助けてくれた」割合が最も高いです。痴漢被害を目撃した際、周囲の人が傍観者にならず行動を起こすことが被害者を助けることにつながります。