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性暴力撲滅プロジェクトとは?

活動の概要

性暴力撲滅プロジェクトは、「性暴力を許容しない社会」の実現を目指す学生主体の活動です。
主な活動として、痴漢・盗撮撲滅ポスターの作成、ポスターの意図や痴漢・盗撮の対処法などをまとめた資料の作成、多くの方に活動を知っていただくための広報活動を行っています。
作成したポスターはこれまで複数の鉄道会社様の協力のもと、駅構内や電車内で掲出されました。また、毎日新聞京都版や神奈川新聞など、複数のメディアに本プロジェクトや作成したポスターが紹介されました

設立の経緯

性暴力撲滅プロジェクト設立の発端は、駅で見かけたとある痴漢防止ポスターでした。被害者に行動を求めるものばかりで加害者の存在が見えないポスターに「違和感」を覚えた法学部の市川ひろみ教授が、大学の授業内で取り上げ、「この違和感について考え、問題提起してみないか」と呼びかけ、それに9名の学生が応えました。学生と教授で議論を重ね、「違和感」の正体は以下の3つであると分析しました。

①痴漢を抑止するための文言ではなく、「2人掛けの座席では、逃げやすい通路側の座席に座りましょう!」など、被害者に向けて「痴漢に注意」するよう訴えかけていること。
→実際に痴漢被害があった場合、悪いのは注意を怠った被害者であり、被害に遭ったのは自己責任だという印象を与えてしまうのではないか。また、被害者に自衛するよう訴えるだけでは、問題解決にはつながらないのではないか。

② 「泣き寝入りしないでください!」など、本来であればケアされるべき立場である被害者に声を上げるよう求めていること。
→声を上げるという行動は、被害者の周囲の人に求めるべきではないか。

③描かれる被害者像は、スカートが短い女性が多いということ。
→「被害に遭うのは露出度の高い服を着ている女性」というイメージの刷り込みが、被害者の自己責任論を強化するのではないか。また、「被害者は女性」という先入観が強調され、被害に遭った男性が相談しづらくなるのではないか。

学生たちは、これらの議論の結果を警察側に伝えたいと考え、意見交換会を申し入れました。そして、京都府警察鉄道警察隊様がこの提案を受け入れてくださり、議論してきた「違和感」についてプレゼンテーションを行いました。これがきっかけとなり、2021年度に京都府警察鉄道警察隊様、そして、本学と地域連携協定を締結した阪急電鉄様の協力のもと、ポスターを制作しました。その後も毎年、痴漢・盗撮が軽視され、加害者が見えにくくなっている社会の現状に問題意識を持った有志の学生が集まり、活動を続けています。

私たちの思い

学生の視点から社会へ問題提起

性暴力撲滅プロジェクトは、学生が社会に問題提起できるという点に大きな意義があります。私自身、最初は「学生が社会変革の担い手になる」とは想像していませんでした。しかし、駅にポスターが掲出されたり、メディアからの取材を受けたりしたことで様々な方から嬉しい反応をいただき、自分自身と社会のつながりを実感しました。
問題意識を設定し、社会にある課題を分析することは簡単ではありません。しかし、学部・学年を超えて議論し、ひとつのプロジェクトを形作っていくことはとても楽しく、自分や周りをエンパワーメントできる力になります。これからもたくさんの学生が性暴力撲滅プロジェクトを通して平和を創る「アクター」になることを楽しみにしています。(2024年度性暴力撲滅プロジェクトリーダーの学生 S・Rさん)

社会変革の担い手になる

私はこのプロジェクトに参加し、社会を視る目が変わりました。今まで当たり前に受容していたことに違和感を覚え、それを行動に移したことで社会を変えるイノベーターになることができました。とても大変ですが、やりがいを感じています。
しかし、1年間の活動では終われないほど、痴漢や盗撮は大きな社会問題のままです。社会のスタンダードが変わるまで、これからも多くの学生に参加してもらいたいです。 (2024年度性暴力撲滅プロジェクトリーダーの学生 T・Rさん)

性暴力に対する認識をアップデートしていく

性暴力撲滅プロジェクトを通じて、性暴力を軽視していることが性暴力がなくない原因ではないかという私なりの答えを見つけることができました。そして、性暴力のない、軽視しない社会に変えるためにひとりひとりが性暴力に対する考え方をアップデートする必要があるという思いを、このプロジェクトを通じて発信していきたいです。(2024年度性暴力プロジェクトメンバー    H・Aさん)

教員からのメッセージ

法学部教授 市川ひろみ

 この取り組みのきっかけは、2020年に私が京都駅で見た京都府警鉄道警察隊による痴漢に遭わないよう注意を喚起する電光掲示板のポスターに、「おかしいな」と感じたことでした。被害者のその後の人生をも左右しうる深刻な性暴力が公共の場で日常的に起こっているという「異常な事態」は社会の問題なのに、このポスターは個人に責任を転嫁してしまっていること、何より、加害者の行動が問題視されていないことに強い違和感がありました。
 
 同時に、ポスターには鉄道警察隊の方々の痴漢被害者をサポートしようという気概も感じられる内容もありました。
そこで、私の「おかしいな」と感じていることをお伝えして、一緒に公共交通機関での性暴力について考えられないかと思うようになりました。ジェンダーに詳しい同僚お二人から助言をいただきつつ、私は、「平和研究」の受講生さんたちに「一緒に考えてみないか」と呼びかけました。
 
 鉄道警察隊の方々も私たちの提案を受け入れてくださり、意見交換会をもつことができたことが、2021年度以降のポスター作成につながりました。これまでに京都府警鉄道警察隊、阪急電鉄、京阪電鉄、京都市交通局の方々のご協力を得て、のべ45名の学生がこの取り組みに参加しました。学生たちが何か月もかけて真剣に議論して作成したポスターは、広く報道され、社会に向けて「公共の場で日常的に起こっている性暴力」について考えるよう一石を投じることができたと思っています。
 
 私にとっても「初めてだらけ」のこの取り組みは、①小さな違和感を言葉にして伝えること、②一方的な批判ではなく一緒に議論すること、③仲間と協力することの大切さを教えてくれました。一所懸命取り組んだ学生さんたち、その思いを受け止めてくださった警察・公共交通機関の方々、丁寧に報道してくれたメディアの方々、応援してくださったみなさんに心より感謝申し上げます。
 
 この取り組みが「公共の場で日常的に性暴力が発生していても平気な社会」を変える一歩となることを切に願っています。 

家政学部教授 江口淑子

 いろいろな情報がさまざまなメデイアで飛び交うこの社会で、何が本当で、何が違うのかを自分で判断し、行動、発信することが重要になっています。
 
 いろいろな立場や目線で多角的に性暴力撲滅について考え、弱者の立場に立って少しでも社会をよりよくしていこうとするこのプロジェクトに関わる中で感じることは、学生の目線は真剣で、新鮮で、説得力があります。多くの人にみんなの思いが届けばと思います。
 
 ご協力いただいている京都市営地下鉄の皆様に感謝いたします。 

京都女子大学ジェンダー教育研究所 戸田香

 電車内での性暴力は特定の個人や女性だけの問題ではありません。安全な車内環境が十分に確保されていない実態は、社会全体の安全に関わる重大な問題で、全ての人にコミットしていただきたいと考えています。
 
 こういった社会課題の解決に向けて、京都女子大学の学生が毎年継続的に挑戦していることは大きな意義があります。また、電車内での性暴力をテーマに、学生たちが毎年議論しているアジェンダは、社会の変容とともにバージョンアップしてきました。今年のアジェンダは「性暴力を軽視してきた社会」をターゲットとしています。
 
 一方、京都女子大学は「グランドビジョン(2020-2029)」の1つとして、「ジェンダー平等の実現に貢献できる組む女性の養成」を掲げ、大学の進むべき方向性と社会的責任を示しています。学生たちの取り組みは、このグランドビジョンと軌を一にしています。
 
 京都という街には、今、多様な人たちが居住するとともに、観光客を含む大勢の人が行きかい、それが街の魅力の1つであり、街のパワーにつながっています。その街の価値を性暴力で棄損してはなりません。京都を支える大動脈の京都市営地下鉄が、学生たちとの協働をもとに、全国に先駆けて性暴カゼロの交通機関になりますように。
 
 一部の人の悲しみや苦しみを長く見逃し、沈黙を強いる社会に、持続可能性はありません。学生たちのこの取り組みが、明日の安全な社会を築く一歩になりますように。        
                                               

本学客員教授 一力知一 氏
パナソニックコネクト株式会社 エバンジェリスト/エグゼクティブコンサルタント

 日本社会の大きな課題の一つであるジェンダーギャップ。
京都女子大学には、ジェンダー平等の実現のための人材育成を掲げたグランドビジョンがあります。
京都女子大学の存在意義そのものです。京都女子大学だからこその視点での大学教職員および学生一人一人がこのグランドビジョンを体現するべく活動しています。
 
 今回の性暴力撲滅プロジェクトは、学生自らが社会課題の本質である社会の考え方・在り方を変えようとする挑戦的な取り組みです。
痴漢をいたずらであると軽視する社会、痴漢を取り締まる法律が事実上なく、罰則の軽い条例でしか対応できない実態。
そして、痴漢にあった被害者を責めてしまい被害の深刻さをさらに増してしまっている社会。
 
 こういった京都女子大学の学生だからの視点での本質的課題を考え解決することで自らが社会を変えようとする学生が増えることが次世代の社会をよりよくするものにつながっていると強く感じます。