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ジェンダー教育研究所 新着情報

2024年02月08日

<第4回:2023年12月16日(土)> (終了しました)

テーマ:日本のジェンダー平等政策—男女共同参画社会基本法の起草を中心にー
第1部 ご講演講師:大沢真理さん(東京大学 名誉教授)
テーマ:日本のジェンダー平等政策
—男女共同参画社会基本法の起草を中心にー
第2部 パネルディスカッション 
<パネリスト> 
・大沢真理さん(東京大学 名誉教授) 
・南野佳代さん(本学法学部教授) 
・中道仁美さん(本学現代社会学部教授)
<コーディネーター> 
・手嶋昭子  (ジェンダー教育研究所長)
開会・閉会挨拶:中山まき子 (ジェンダー教育研究所特定教授)

第1部:ご講演<概要>

<男女共同参画社会基本法ができるまでの経緯> 
1999年6月23日、「男女共同参画社会基本法」は小渕恵三内閣(自民党・自由党の連立政権)提出法案で、参議院先議、「前文を加える」という内閣提出法案には稀な修正を経て成立した。前文には法の意義が、本文には5つの基本理念が組み込まれた。
同基本法制定の背景には、国際社会の動向がある。第1に、国連が女性差別撤廃条約を採択し、日本がこれを批准したこと(第1回参照)。同条約は、固定化された男女の性別役割分担観念の変革を中心理念とし、法律上の平等のみならず個人・団体・企業による差別撤廃も求る。日本が条約を批准する上で条件となったのが、男女雇用機会均等法の制定(第2回参照)、国籍法の改正(父系優先から父母両系へ)、高校家庭科の男女共修(1989に学習指導要領改正等)だった。
第2に、国連世界女性会議(1975・1980・1985・1995年)が開催され、日本では1994年、内閣に男女共同参画推進本部、総理府に男女共同参画室と同審議会が設置された。この審議会で、「ジェンダーに対する3つのスタンス」を審議し、3つのうち「男女の特性」を前提とせずに男女平等を目指す立場が了承された。そのうえで審議会答申『男女共同参画ビジョン』で、基本法制定の必要性が指摘されたのである。
橋本龍太郎首相のもとでの1996年10月の総選挙では、女性に関する基本法の制定が自民党の公約となり、「自・社・さ」の連立合意ともなった。

<なぜ「男女平等」ではなく、「男女共同参画」なのか:第2部も含め>
当時、法的な男女平等はほぼ達成されているという認識があった(例外は多数:民法の再婚禁止期間、税制の寡婦控除・遺族年金、他)。そこでむしろ「アクティブな理念として、共同参画」という表現が採用された。また、男女平等は「状態」を表すため、正確な表現を用いるなら「男女平等化基本法」となろう。
日本では、立法のほとんどは閣法(政府提出法案)である。その閣法案の策定に際しては、国会提出以前に、内閣法制局が審査を行う。その際、法令検索に登場する用語であれば法制局の審査が通りやすい。「男女共同参画型社会」という表現は、1999年以前からで政省令や法律で使用されてきていた。また、家庭科の別習(中学)や女子のみ必修(高校)は、「男女特性」論により正当化されており、男女平等に反しないとされていた(旧教育基本法および学習指導要領の解釈)。これに対して『男女共同参画ビジョン』は、「男女特性論」は、すなわち生物学的機能の性差に由来する社会的役割の違いを前提とせずに、男女平等の実現を目指す立場」を含意していた。

<日本のジェンダー政策—基本法の骨子−>
基本法は、男女が同じようになることを目指すものではない。「性別にかかわりない個人の尊厳」とは、すなわち多様性の尊重である。
第3条では、差別をなくし、機会の確保を目標とする施策が、第4条では選択の自由を阻害する社会的制度・慣行を是正することが記されている。
つまり、同法は、(1)「それ自体として正しいこと」(差別の撤廃と機会均等)と、(2)「社会的損失・社会的利得」(正しいかどうかよりも)との関係をも理念として組み込んでいる。(2)とは、仮に差別がなかったとしても、大きな社会的損失を招くこと(配偶者の税制、社会保障など)、社会的利得を生じさせること(例:防災分野で男女のニーズが異なる対処等、科学技術分野等)をも指す。
第4条に類する規定は、当時の諸外国の男女平等法制に見られないものだった。日本の生活保障システムの税金や社会保障、雇用システム等の在り方は、日本では「自助>共助>公助」であり、その大前提に「内助」があって「男性稼ぎ主」を優遇してきた。そうしたシステムが、女性の出産後離職やパート就労などの選択に「中立でない影響」を及ぼすことを、第4条は問題にしている。
第4条によれば、ジェンダー平等政策の守備範囲は、差別の解消や積極的改善措置にとどまらず、格段に広くなる。しかし、第4条に基づく取り組みは進展せず、男女の社会活動の選択に「中立でない影響」を及ぼす制度や慣行(配偶者控除、国民年年金第3号被保険者制度、夫婦同姓の強制など)は、2023年現在も是正されていない。
政府は制度改革に関して、「国民の意識がまだそこまで至っていない」と弁解することが多い。2000年以前の国内行動計画は、意識改革を筆頭項目としていた。これに対して、「制度が意識を規定する面がある」ことに注意を払ったのが、男女共同審議会の答申『男女共同参画ビジョン』であり、基本法の中に魂として入っている。

第2部:パネル・ディスカッション

第2部では、大沢真理さん、本学教員の中道仁美さん(現代社会学部教授:農山漁村の女性政策)、南野佳代さん(法学部教授:法社会学・ジェンダー法学)が、手嶋昭子所長コーディネートでディスカッションを行った。
中道仁美さん:フェミニストの理論は、自然にその内容が身体の中に入り、フェミニストになってしまったように思うと語り、自身の専門から(1)1999年に農業基本法が、食料・農業・農村基本法に変更され、その際に女性の項が政策的に位置付いた。2001年には初めて水産基本法ができ、そこにも女性の項が加わったことを紹介した。(2)ただ、林業基本法は2001年に森林・林業基本法に変更されたものの女性の項は入らなかったため、現在はこの分野に力を注いでいる、また(3)第4次男女共同参画基本計画(内閣府男女共同参画局:平成27年12月25日閣議決定)で、女性活躍推進法が制定されたことで、女性活躍に対し予算が付いた理由と考え方を尋ねた。
大沢さん:「基本法」は枠組み法であるとともに、内閣府所管である。2000年の省庁再編で内閣府は、省庁間の総合調整を図ることができる権限を与えられている。半面で内閣府男女共同参画局は、事業をおこなわない約束で発足し、予算や人員の配分は小さい。個別法の場合、予算を用いた事業となり、女性活躍推進法(2015年8月成立・翌年施行・2020・22改正:厚労相所管)は後者である。
南野佳代さん:できあがった基本法しか見ていなかったが、今回政策形成過程を学ぶことができた。質問は、①基本法を創るときの立法趣旨(理念)に対して、20数年を経て、現在そこにはどのような距離があるか否か。②「制度が意識を創る」ということは納得できる。ただ、政府が表現する「国民の意識」とは何か、現実が先に動いているので不思議に思うことがある。③男女共同参画社会の実現に向け女子大学ができること、期待されることは何か教えて欲しい。
大沢さん:①20年後の今、制度・慣行に関する影響調査は顧みられなくなっている。本来、省庁横断的に行う必要があるが、内閣府への協力が円滑でなく、影響調査が行われなくなった現状は残念だ。②制度と意識の関係について、2022年6月発行『令和4年版男女共同参画白書』の記述は注目に値する。コロナで発生した経済的苦境は女性で大きかったことを指摘し、各種の制度や慣行が「昭和時代のまま」であるが故に、女性の被害が甚大になった」と記されている。そして、それらの制度や慣行こそが、女性の働き方を専業主婦ないしパート就労という「モデルの枠内に留めて一因ではないか」と、指摘している。政府の白書としては画期的記述である。解決策は、「税や社会保障制度を世帯単位から個人単位に改めることだ」と記されており、これは『男女共同参画ビジョン』が25年前に述べたことでもあるのだが。
③女子大学の存在意義は、まだこの国では大きい。例えば、「東京大学は20%しか女子学生が存在しない。これを共学といえるのか。クリティカル・マスは、全体における30%と言われている。少数派でも3割を占めると、多様性が担保され、内実の変換も生じる可能性がある。女性がリーダーになれば、リーダーシップの在り方自体も、上意下達よりもボトムアップで意見をまとめるというように、変換していくのではないか。
なお、会場からは多数の質疑応答があり、最後に全員から若者へのメッセージが伝えられた。
  • 大沢先生
  • 登壇者とジェンダー教育研究所の皆さん