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【現代社会学部】環境政策ゼミ(諏訪ゼミ)卒業論文紹介コーナー 「住民」が「市民」へ変わる瞬間:「知る」から始まる「市民」の物語

現代社会において、環境問題への関心や参加の度合いは人によって大きく異なります。でも、それはなぜなのでしょうか。生まれも育ちもさまざまな5人の声から見えてきた「住民」から「市民」への変化プロセスを、環境政策ゼミの卒業論文からご紹介します。
 
2024年度に卒業した現代社会学部環境政策ゼミ(諏訪ゼミ)の加久ことみさんは、環境問題に対してどのような意識の変遷があるのかを探るため、地域の石炭火力発電所裁判に関わっている大学生から元市議、技術者までさまざまな背景を持つ人に半構造化インタビューを行いました。その中で環境問題への参加の中で「住民」から「市民」へと変わる瞬間が見えてきました。
 
舞台となったのは神戸。地元の大手企業が石炭火力発電所を設置しようとしたことをきっかけに、何年もにわたる環境アクションと法廷闘争が繰り広げられています。石炭火力発電所からの二酸化炭素(CO2)の排出は気候変動の大きな原因です。しかし日本では、石炭火力発電所が建設が止まりません。そこで、環境団体や市民が神戸で新設される石炭火力発電所の建設差し止めや、国の責任の明確化を求めて起こして訴訟を起こしました。主な争点は、発電所の稼働による温室効果ガスの排出が地球温暖化を加速させ、住民の健康や生活環境に深刻な影響を及ぼす可能性があるという点です。裁判では、環境影響評価の妥当性や国の認可手続きの適法性が問われています。気候変動対策の強化が求められる中、日本国内での重要な気候訴訟の一つとして注目されています。
 
この裁判に関わるようになったきっかけにはどのようなものがあったのでしょうか?
たとえば、知的好奇心から海外で環境サミットに参加し、「日本は環境先進国じゃないのか」と思っていた自分の認識とのずれを感じ、「何か動かないと」と感じて踏み出した人。市民が高齢化する中で、「やりかけたことはやりとげる」と心に決めて動いている人。大学の部活や仕事の体験を通して環境との関わりを大切にしている人。
 
知識や経験は違っても、その踏み出しはどれも「知ること」から始まりました。
 
「リサイクルはするけど社会的行動までは踏み出せない」「環境アクションはしたいけど知識不足で自信がない」——そんな声を応援するように、家族がサポートし、違和感を分かち合ってくれる兄弟がいたり、近所の誘いで勉強会に行ったら結局原告になっていた人もいました。
 
そこには裁判にかかわることでいつの間にか「自分の言葉で説明できる」ほどの理解を持つ、まさに「市民」としての姿がありました。
 
これらの声から見えてくるのは、さまざまな経験を通じて人はどことなく受け身な存在の「住民」から、自分の行動の意味を見つめる「市民」へと変わる、その「スイッチ」を体験しているということです。
 
それは、一部の理想家だけの話ではなく、社会を生きる普通の人たちが少しずつ、一歩ずつ進んできた光景でした。
 
それは、もしかしたら私たちも、これから出会うかもしれない「スイッチ」なのかもしれません。
 
(文責:諏訪亜紀)