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【現代社会学部】環境研究テーマ紹介:イギリス・送電網接続改革:ボトルネックを突破する新制度

気候変動やエネルギー転換が世界的な課題となる中で、環境問題の研究はますます多様化しています。どのような電源を開発するかに加え、今やその先——「どう届けるか」「どうつなぐか」という電力インフラの課題が、持続可能な社会づくりに欠かせないテーマとなっています。
 
本記事では、イギリスで進められている送電網接続制度の改革を取り上げ、再生可能エネルギーの普及を阻む“見えにくいボトルネック”に光を当てます。制度設計の工夫が、どのように環境政策の実効性を高めるのか。そして、日本のエネルギー政策にどんな示唆を与えるのか紹介していきます。
 
諏訪亜紀
 
 
はじめに:環境問題の“次の課題”は送電網?
 
再生可能エネルギーが注目される中で、「電気をつくる」だけではなく、「電気をどう届けるか」がますます重要になっています。
 
世界では現在、風力や太陽光などのクリーンエネルギーを送電網につなぐための申請が急増しており、接続までに何年も待たされるという問題が起きています。日本でも同様の問題が発生していますが、有効な対策が確立しているわけではありません。
 
一方、このような状況を打開するために、イギリス政府は送電網接続制度の大改革に乗り出しました。新たに導入される「Gate制度」は、準備が整ったプロジェクトを優先的につなぐ仕組みであり、従来の「先着順」方式の限界を乗り越えようとしています。
 
本記事では、この制度改革の背景と内容、そして日本の再エネ政策への示唆についてご紹介します。環境問題や電力の未来を考えるうえで、送電網という“インフラ”も重要ですが、そこにどのような課題があるのか、一緒に見ていきたいと思います。
 
 
背景:再エネがつながらない?送電網の“渋滞”問題
 
イギリスでは、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを送電網につなぐためのプロジェクトが急増しています。その規模は739ギガワット(GW)を超え、2023年から2024年の間だけでも1,700件以上の新しい申請がありました。 このような申請の集中により、送電網への接続までに数年から十年以上かかるケースも珍しくなくなっています(gtlaw.com)。
 
現在の制度では、「先に申請した順」に接続の順番が決まります。しかしこの方式では、まだ準備が整っていないプロジェクトが先に並んでしまい、実現性の高いプロジェクトが後回しになるという問題が起きています。結果として、送電網の活用が非効率になってしまっているのです。
 
 
制度改革のポイント:「Gate制度」で順番待ちを見直し
 
この課題を解決するために、イギリスでは新しい接続制度「First ready, First needed, First connected(準備ができていて、必要とされるものから接続)」を導入することになりました。 この制度では、プロジェクトの準備状況や電力供給への貢献度をもとに、接続の優先順位が決まります。
 
具体的には、新制度では「Gate(ゲート)」と呼ばれる段階的な審査が導入されます。
 
Gate 1:まだ準備が不十分なプロジェクトでも、目安となる接続日や容量の案内を受けることができます。
Gate 2:土地の権利や計画許可など、必要な条件を満たしたプロジェクトは、確定的な接続日と容量が保証される「高速ルート」に進みます。
 
なお、Gate 2の導入により、すでに申請されているプロジェクトも再評価されます。準備不足で実現の見込みが低い「ゾンビ案件」は排除されることになります。 また、一定の条件を満たすプロジェクト(例:2026年までに接続契約済み、2024年末までに計画許可取得済みなど)は「保護対象」として優先的に扱われます。
 
 
実施スケジュール:2025年から本格始動へ
 
この制度改革は、イギリスの電力・ガス市場を監督するOfgemによって進められています。2025年2月に原則承認され、3月末までにパブリックコメントを募集し、春の終わりには最終決定が下される予定です。
 
その後、2025年4月15日から6月10日までの約2か月間、既存の接続申請の審査が一時停止されました。この期間を経て、夏から新制度の運用が始まる見込みです。
 
改革が完了すれば、2025年後半から2026年〜2027年にかけて、接続契約の見直しや再提供が本格的に始まると予測されています。
 
 
期待される効果:停滞案件の排除と投資の活性化
 
Gate 2によって、条件を満たしたプロジェクトには正式な接続オファーが出されます。試算によれば、65GW規模の太陽光発電プロジェクトが対象となり、従来の39GWから大きく増加する見込みです。
 
この制度改革によって、年間約400億ポンド(約5兆3,000億円)もの民間投資が動き出すと期待されています。
 
イギリス政府のエネルギー大臣Ed Miliband氏は、「長期間停滞している申請を排除し、エネルギーの安全保障と電力料金の引き下げを促進する」と述べています。 また、OfgemのCEO Jonathan Brearley氏も、「制度の非効率をなくし、再生可能エネルギーの接続を加速させる」と語っています。
 
 
日本へのヒント:私たちの電力政策へのヒント?
 
イギリスの送電網接続制度改革は、日本にとっても多くの学びがあります。特に以下の3点が重要です。
 
1. 順番の見直し
 日本でも再生可能エネルギーの導入が進む中で、接続申請の順番や処理方法の効率化が課題になる可能性があります。イギリスのGate制度は、その先行事例として参考になります。
 
2. 資金調達と信頼性の向上
 Gate 2の基準によって、実現性の高いプロジェクトが明確になり、資金調達がしやすくなります。これは、電力システム全体の信頼性向上にもつながります。
 
3. 投資の促進
 接続の保証が明確になることで、投資家や金融機関の信頼が高まり、民間投資が集中する仕組みが整う可能性があります。
 
 
まとめ:送電網改革は、未来のエネルギーを支える鍵
 
今回の制度改革は、739GWを超える接続待ちのプロジェクトを整理し、再生可能エネルギーをより早く送電網につなぐための大きな挑戦です。
Gate制度によって、「準備が整い、必要とされるプロジェクト」が優先され、「ゾンビ案件」は排除されます。これにより、投資の活性化とインフラ整備の両立が期待されます。
 
日本でも、再生可能エネルギーの普及や送電網の計画を効率的に進めるために、イギリスの取り組みから学ぶべき点は多いといえるでしょう。気候変動問題解決に向けて、国際的な動きを見据えつつ日本の系統に目を向けた研究・学習も重要になりそうですね。