

現代社会学科
サステナビリティってなあに?: 持続可能性と個体群モデリングの関連について(現代社会学部・諏訪)
はじめに
もうすっかりSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)という考え方が社会に定着した感がありますね。「みみたこ」状態の方も多いと思いますが、あたためまして、SDGsとは、国連が2015年に採択した17の目標です。貧困の撲滅、健康と福祉、教育の質向上、ジェンダー平等、気候変動対策など、幅広い分野で持続可能な社会を実現するための具体的な目標と169のターゲットが設定され、2030年までにすべての国や地域、企業、市民が協力して取り組むことが求められています。SDGsに取り組んでいます!という活動の中にはほんとにそれでSDGsっていっちゃっていいの?というような事例もあるようですが、持続可能性:サステナビリティが大切だ!という機運が広まること自体の意義はやはり大きいでしょう。
ただ、持続可能性ってそもそも何なんでしょう?とりあえず、ずーっと続けばいいってことでしょうか?筋トレに1年以上はまっている筆者は、「今回の趣味(筋トレ)は持続可能性あったわー」などと浅はかなことを言っていますが、こんな使い方でいいはずはない、と自戒の念を込めて持続可能性について筆者が昔お勉強したことを確認していこうと思います。
筆者がまだ若かりし頃、ロンドンの大学院でではじめに勉強させられたのがオダム生態学と個体群モデリング(概ねLotka-Volterraに基づく)でした。数学が苦手な筆者、マルサスの人口論すら学んだことのなかった身にはつらい内容でしたが、これほどまでに持続可能性大流行の時代が来た今になってみると、個体群モデリングの考え方を学んでおいたてよかったなあ、とつくづく思います。具体的にじゃあ、どうよかったのか語りますね。
まず、個体群モデリングは、生物学や生態学で用いられる手法です。一般的には、マグロとか、セイタカアワダチソウとか(もちろんそれ以外でも)人類以外の生物の個体群が増えた、減ったを説明するときに用いられます。が、人類の持続可能性を理解し、実現するためにも有効です。筆者は、魚にはそれほど興味がないのですが(←それでも環境学の人間か)、人類という種の持続可能性はまさに自分にかかわることなので大切さが身に沁みるので、以下もう少し詳しく見ていきます。
個体群モデリングとは
まず、個体群モデリング(Population Modeling)は、生物の個体群の動態を数学的に表現する方法です。基本的な個体群モデルには、以下のようなものがあります。
この二つの違いは何でしょうか? 指数関数的成長モデルは、資源が豊富で制約が少ない状況で、人口や資源消費が急激に増加する様子を示します。これは、短期間での爆発的な成長を表し、人口増加や経済発展の初期段階に見られます。しかし、無限に続くわけではなく、環境や資源の限界に直面します(注1) 。
化石温暖化を招いている現在の世界は、地球の気候バランスという「資源」の限界に直面しているといえるでしょう。
一方、ロジスティック成長モデルは、個体数が環境収容力に近づくと、成長が徐々に鈍化し、やがて個体数が一定になり成長が止まる様子を示します。これは、資源の有限性や環境のキャパシティを考慮した現実的な成長パターンです。興味深いのは、資源の限界に直面するとロジスティック成長モデルは持続可能な成長とバランスを示す点です。図1はごく簡単な前提に基づいた架空のモデリングですが、緩やかに増加した個体数が、一定の年数に達すると、増えすぎず、減りすぎず、の「定常状態」に落ち着く様子を示しています。

図1 ロジスティック成長モデルイメージ
もちろん、資源を使いすぎたり、環境のキャパシティを考慮しない成長をすすめたりすると、ロジスティック成長モデルも破綻します。図2は上と同じモデルを用い、個体群の増加が図1よりも多いと仮定してプロットしたときのものです。先の大学院では、「増加率をいろいろいじって、変なグラフになるとどんな感じか考えましょう」みたいな課題が出たため(注2) 、筆者もいわれた通り、いろいろいじっていたのですが、その結果このようなグラフができたことに、とてつもない衝撃を受けました。これと同じことが本当に人類に起きたらいったいどういうことになるか??

図2 ロジスティック成長モデルイメージ(2)
さて、図1ではようやく「持続可能性」というタームが出てきました。個体群モデリングを追っかけていたら、とんでもないもの(持続可能性)を見つけてしまった!? そうです、あのSDGsのサステナビリティのルーツはここにあり、といってよいでしょう。つまり、サステナビリティとは、もともとは生物の(個体群の)持続可能性を問う概念でもあったわけです。そして、個体群モデリングは、当然同じように生き物である人類の持続可能性に関してもある程度応用することができるわけです。ただ、これまでも人類は食糧生産の効率化などによって環境収容力そのものを上昇させるなど、環境収容力そのものの定義が難しいということはひとこと付け加えておきます。
例えば、資源利用増に伴う気候変動やその他の環境影響は、人類の持続可能性に重大な影響を与えます。逆にいえば、長期的な視点での資源管理や環境保護をすれば種としての人類の持続可能性は無理ではないことを示しています。だからこそ、持続可能な社会の実現に向けた具体的な計画や政策の策定・実施が求められるといえるでしょう。
結論
持続可能性とは、地球上の資源を将来世代にも利用できるようにするために、社会的、経済的、環境的なバランスを保つことを指します。個体群の考え方は、人類そのものの持続可能性をイメージする上で第一歩となるものだと思います。その理解の上で、人類が将来世代に渡って持続可能な社会を実現するための道筋を描くことができるでしょう。そのために広く社会が取り組むことができるよう、わかりやすくSDGsが設定されたわけですね。筆者の筋トレの持続可能性も、やる気という資源がいつまでつづくかに依りますね!
(注1) なお、指数関数的モデルは以下のようにも表現できます。

(注2) インペリアルカレッジMSc. Environmental Technologyの1995年の課題では、増加率のみの変更によって、モデルがどのような動きをするのかを観察させる課題が出ていましたが、これは必ずしも個体数の増加だけが変動要因としているわけではなく、個体数の変化に代表される資源利用などが個体群の安定に関係することを端的に学生に理解させようという意図があったようです。この記事でも、人口増加そのものよりは、(人口増加も含めるには含めるが)人間活動そのものに伴う「資源利用」のありかたを問いたいと考えています。