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環境政策ゼミ卒業論文まとめブログ(3) 京都の看板建築に関する研究とそれらの建物に込められた人々の思いとは?

 
 こんにちは。現代社会学科2022年度卒業の森本如葉です。卒業から大分経ってしまいましたが、今回は私の卒業論文の内容を抜粋してご紹介いたします。

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 京都の街並みは、日本独自の歴史的建造物や趣ある建物で溢れています。重要文化財や世界遺産に指定された建物がその代表例であり、観光名所として多くの人々が訪れています。しかし、京都の建築には、日本の歴史を感じさせる建物だけでなく、西洋文化の流入によって誕生した和洋折衷様式の建築物も残存しています。それらの多くは、西洋化の最盛期である明治大正期に建てられた建物であり、いくつかはその歴史的価値から重要文化財として保存・活用されています。


中京郵便局 京都市登録有形文化財・「景観重要建築物」に指定 (出典 日本郵政グループJPcast)


 一方で、同時代に建てられたにもかかわらず、保存の対象とはなっていない建物があり、それらは一般的に「看板建築」と呼ばれています。「看板建築」とは概ね、元来長屋や町屋であった建物のファザード面だけを西洋風に置き換えて文明開化に対応した建物のことを指します。これらの建物は、人々の生活とともに京都の街並みの一部となっているものの、あまり注目されず、文化財として価値を公的に認められているわけでもなく、老朽化や所有者不足などの理由によって取り壊されることが多い傾向にあります。

 しかし、このような状況下にありながらも、生き残っている看板建築がいくつか存在しています。同時代に建てられた京町屋や洋風建築のように確立した保護・保全をされることなく、より厳しい条件の中で、建築当時のままに存在している看板建築の存在は奇跡といっても過言ではありません。これは、所有者の方々の人知れぬ努力の賜物なのではないかと考え、建築物の所有者に対してヒアリング調査を実施しました。

⚫︎西川薬品
大正13年建造。薬局として使われています。所有者は建物を残すことを希望しており、支援や補助金があれば建物の長期的な保存に繋がると語られていました。


現在の西川薬局(2023 1 月撮影)及び創建当初の同薬局


⚫︎有限会社スペースマジックモン
大正14年建造。現在は、デザイン設計事務所として使用されています。所有者は建物を大切にし、建物の利用価値が認められることが重要だと仰っていました。


スペースマジックモン(2022 9 月撮影)及び特徴的な窓の様子


⚫︎三密堂書店
大正初期建造(推定)、正面から見て右側は古書店として使われています。古書店店長は時代の変化には抗えないものの、建物を残すことを強く望まれていました。


三密堂書店の入る建物 正面2022 10 月撮影


今後の展望
 ヒアリングを通じて、建物の命は、各々の建物に対する「思い」によってつながれていたことが分かりました。一般に、文化財指定を受けている洋風建築は歴史的・美学的側面から取り上げられていることが多いですが、建物に対する「思い」からなる精神的な建築の価値、つまり人々の感情が織りなす美学というものも存在するのではないでしょうか。私は、デザインという要素と、持ち主の思いが共存することで価値ある建物が成立すると考えました。そして、看板建築を未来へ継承するためには、京都の看板建築に関する歴史を紐解き、所有者の思いを知り、記憶からその価値を再認識し、その記憶を伝えていくことが大切だと思います。一方で、擬洋風建築についての一般的な認識も高める必要があるかもしれません。古い建物を取り壊す前に、記憶を記録し、時代の結晶を残し繋げることで、新たな創造のための資源にすることができると考えています。