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食物栄養学科

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【食物栄養学科】卒業研究の成果が論文発表されました~塩味感覚における塩化物イオンCl-の寄与~

 家政学部食物栄養学科中貝美玖さん(2024年度卒業)、村田百さん(修士課程2年)らが実施した卒業研究の成果が論文発表されました(指導教員:食品学第3研究室 成川真隆准教授)。

タイトル:Contribution of chloride to salty taste in gustatory sensation
著 者:Miku NAKAGAI, Momo MURATA, Yoichi KASAHARA, Yoshikazu SAITO, Yukako HAYASHI, Tomiko ASAKURA, and Masataka NARUKAWA*
雑誌名:ACS Food Science & Technology, 5, 1742-1750 (2025)
: equal contribution

塩は私たちの生活に欠かせない存在であり、塩味は食事のおいしさを高める重要な要素です。しかし、塩味がどのように認識されるのか、その仕組みについてはまだ十分には解明されていません。代表的な塩味物質として塩化ナトリウム(NaCl)が知られています。塩味の知覚にはナトリウムイオン(Na+)が重要な役割を果たすと考えられていますが、実はNa+を含まない塩化物塩(Cl塩)にも塩味を感じさせるものがあることが知られています。これは、塩味の知覚においてはNa+だけでなく、Cl-も関与している可能性を示しています。しかし、Na+に比べてCl-の具体的な働きについては、まだ分かっていないことが多く残されています。そこで本研究では、Cl-がヒトの塩味知覚における役割を検討するため、さまざまなNa塩およびCl塩の味覚特性を比較しました。その結果、Naを含まないCl塩であっても塩味を呈すること、特に塩化カリウムKClと塩化アンモニウムNH4Clが強い塩味を持つことが確認されました。さらに、Na+の働きを弱める物質を加えて塩味の強さを測定したところ、Na塩の塩味は大きく低下したのに対し、NaClCl塩の塩味はほとんど影響を受けないことがわかりました。これらの結果は、私たちが食品から感じる塩味において、Na+の寄与は限定的である一方で、Cl-の寄与がこれまで考えられていた以上に大きいことを意味しています。
 食塩の過剰摂取は高血圧などのさまざまな病気の原因となるため、減塩の取り組みが世界中で進められていますが、まだ十分に効果的な方法は確立されていません。本研究の成果は、塩味を感じる仕組みに対する理解を深め、より効果的な減塩方法の開発に貢献する知見になると考えられます。なお、本研究は東京大学、東洋食品研究所、京都大学、放送大学との共同研究による成果です。