Follow Us

京都女子大学 ブランドサイト

しなやかに、切り拓け。

Academic

社会とつながる 京都女子大学の「学び」

岩原 昭彦 教授 岩原 昭彦 教授

人生100年時代をより幸せに健やかに生きるための心理学

  • 岩原 昭彦 教授

    心理共生学部 心理共生学科 学部長

    岩原 昭彦 教授

    2002年名古屋大学博士後期 人間情報情報学研究科単位取得満期退学、博士(心理学/名古屋大学)。 2017年から京都女子大学発達教育学部(現:心理共生学部心理共生学科)教授。神経心理学、健康心理学を主な研究分野とする。

    2002年名古屋大学博士後期 人間情報情報学研究科単位取得満期退学、博士(心理学/名古屋大学)。 2017年から京都女子大学発達教育学部(現:心理共生学部心理共生学科)教授。神経心理学、健康心理学を主な研究分野とする。

岩原 昭彦 教授

意味のある目的こそがダイエット成功の秘訣

突然ですが、女性にとってダイエットが成功しやすいタイミングとはいつだと思いますか?答えの一つに、結婚前が挙げられます。なぜなら、「結婚式までに何キロ痩せて、きれいになる」という目的が明確であり、ダイエットをすることに意味を見出しているからです。逆に、ダイエットに挫折してしまう人は、何のためにするのか明確な目的がなかったり、その目的を意味づけられていなかったりするからだと考えられます。
このように、人間の心理を紐解くと、人生において意味があると思えることで、行動が引き起こされます。そして、今の自分を受け止めたうえで現実的な目標を決める、できそうなことから始める、これらが成功の秘訣です。ありのままの自分を受け入れ、自分の良いところを見つけないと、目標のために頑張ろうというモチベーションはなかなか生まれてきません。また「私には無理だ」とあきらめたり、目標が高すぎたりしても、モチベーションは湧いてこないのです。このような考え方を、心理学の世界で「ポジティブ心理学」と言います。

心理学を応用すれば認知症予防につながる!?

私が研究しているのは、「神経心理学」や「健康心理学」の分野で、心理学の医療応用を目指しています。あまり知られていませんが、心理学を使えば人々を幸せにしたり健康にしたりすることができるのです。その中で、ポジティブ心理学を活用した認知症予防にも取り組んでいます。一般的に、認知症は発症する25年前から進行する、と言われています。具体的に言えば、75歳で認知症と診断されたとすると、50歳からすでに進行は始まっているということ。また、認知症に深く関与しているとされる高血圧が40~50代に見られると、認知症のリスクは高まると言われています。まさに、学生たちの親世代は認知症を発症するタイミングに差し掛かっていると言えます。そのため、授業で学生によく伝えるのは、両親を認知症から守りたいなら、今が注意喚起するべきタイミングであること。しかし、対策のための行動を起こさせるのは容易ではありません。

岩原 昭彦 教授

人とのつながりを原動力に変える

なぜなら、将来のリスクを、本人にとっては現実的にとらえにくいからです。そんな事例にこそ、ポジティブ心理学の手法を活用できます。
一方、学生には3年次、家族を対象に健康のための行動を引き出す課題を課しています。例えば、父親に禁煙を促すには、どうすればいいか。認知症の例同様、将来、肺がんになるリスクを伝えても、なかなか禁煙をする意味づけはしにくいでしょう。では、娘から父親に対し、「家族のために長生きしてほしい」と伝えると…?家族からの働きかけは大きく、娘の願いが動機になって「やってみよう」という気持ちを起こさせることができると考えられます。
このように行動を引き起こす意味づけに、人とのつながりを利用するのは有効でしょう。本人の意思だけでは行動を変えるのは難しい、だからこそ周りの人の支援を活用するのです。ちなみに愛情ではなく、対抗心を利用するのも同じ結果をもたらすことができます。「あの人が運動を続けているなら、私も頑張ろう」というケースもよく耳にしますよね。

懐かしい思い出が幸福感をもたらす

シニアに対する認知症予防の方法として、おじいちゃん・おばあちゃんに若かった頃の昔話を聞くことをおすすめします。昔話をすることで、誰かと過ごしたさまざまな記憶がよみがえり、今まで出会った人たちや人とのつながりに対して感謝の気持ちが沸き起こります。さらに、過去の自分がいるからこそ、今の自分がいるのだと、存在意義を感じることができます。それを孫が聞いているということに、次世代へのつながりも感じられて幸福感を得られるのです。
実際に学生が試してみたところ、何度も昔話を話してもらっているうちに、おじいちゃん・おばあちゃんたちが元気になった、関係性がよくなった、変化が見られたと聞きます。学生にとっても、自分たちの関わりが、祖父母を健康・幸福にすることができたと喜びを得られ、相乗効果が見られました。
こうした働きかけを、心理学では懐かしさの研究と呼んでいますが、もともとの研究対象は大学生のもの。つまり、若者でも懐かしい思い出にひたることで、幸福感が上がると言われているのです。

岩原 昭彦 教授

心理学の学びがウェルビーイングをもたらす

昔を懐かしむことで、幸福感のほかにも得られることがあります。懐かしいと思えることは、ある誰かに感じていた怒りが収まった、許せたということ。つまり、懐かしむ訓練をすれば幸福感が得られ、寛容性が増して孤独感も減ります。シニアにとっては、怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」の効用があるとも言われています。
ただし若者の場合、怒りへの効用はさほどないと考えられています。そもそも若いときは、ポジティブよりもネガティブなほうに注意が向くようになっています。というのも、ネガティブな感情は生存や適応するうえで必要なものだからです。一方、高齢者は人生において残された時間を有意義に過ごすために、ネガティブよりもポジティブなほうに注意が向くようになっていると考えらます。このメカニズムが分かっていれば、若者でもポジティブなものに目を向ける、つまりポジティブ思考ができるようになると言えます。それこそ、大学で心理学を学ぶ意義です。人生100年時代と言われる今、心理学を学べば、心だけでなく体もより良い状態へ、より幸福に生きる秘訣を見つけることができるのです。

岩原 昭彦 教授

インタビューを行って

心理学というと、人の心を読み解く学問であり、将来の職業でいえば心理カウンセラーなどをイメージしますが、社会で、そして医療現場で活用できる学問なのだと、岩原先生のお話から分かりました。もし興味が持てたなら、お話にあった方法を実際に試してみてはいかがでしょうか。
例えば、あなたのお父さんが塩辛いものばかり食べていたり、お母さんがぽっちゃりしてきたりするなら、健康をおびやかすリスクがあり、自分のためにも長生きをしてほしいという思いを伝えてみる。そして、いまの食事や生活習慣が変わるように働きかけてみましょう。うまくいかなければ、人生において意味をもたらすもの、動機を生むものを見つけて再チャレンジを。
または、おじいちゃんやおばあちゃんに昔話を聞かせてほしいと頼んで、どんな変化が起こるのか確認するのもいいかもしれません。会話をするうちに、いきいきと表情が変わるおじいちゃん、おばあちゃんを見て、あなたもうれしさを感じるようになれば、試みは成功です。
このように、家族や友人など、身近な誰かの力を借りて健康のための行動を引き起こすことは、いずれ地域社会に還元されていく。心理学は、これからの社会で求められていく学問になる可能性を秘めていると感じたインタビューでした。