Academic
社会とつながる 京都女子大学の「学び」


SDGsの担い手を育む教材、教員、教育とは
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発達教育学部教育学科
坂井 武司 教授
小学校教諭として勤務後、2008年兵庫教育大学修士修了(学校教育学)、2015年甲南大学大学院博士修了(情報学)。2016年に京都女子大学発達教育学部准教授となり、2019年度から現職。算数科教育とシンガポールの教育を主に研究する。
小学校教諭として勤務後、2008年兵庫教育大学修士修了(学校教育学)、2015年甲南大学大学院博士修了(情報学)。2016年に京都女子大学発達教育学部准教授となり、2019年度から現職。算数科教育とシンガポールの教育を主に研究する。

沖縄の「花ブロック」がSDGsに通ずる!?
現在、私はSDGsの実現に向けたESD(持続可能な開発のための教育)教材について、研究・開発をしています。具体的には、沖縄特有の建築素材「花ブロック」を教材化するため、沖縄の小学校2校に協力を仰ぎ、実際に算数の授業に取り入れてもらっています。
授業としては、図形の単元で線対称や点対称などを学ぶ中で、「花ブロック」を利用。「花ブロック」のメーカーからメッセージ動画をいただいたり、児童たちにオリジナルの「花ブロック」のデザインを考えさせたりといった授業を展開してもらいました。「花ブロック」の教材化を沖縄の全小学校に広めていくために、授業の仕方を解説した冊子の制作も進めています。沖縄の子どもたちに知ってほしいと、社会貢献の一環として進めている一面もありますが、現場の教員の方にとっても、題材になるものはいろいろあるのだと気づく機会になればと思っています。

将来に残すべき文化であり、エコな「花ブロック」
そもそも「花ブロック」とは何かと言うと、光や風を通しながら目隠しもできるコンクリートの建築素材のこと。さらに台風による飛来物から防護もできるため、沖縄の地域特性に合っており沖縄のあちこちで見ることができます。その歴史は、米軍基地にコンクリートの製造機が持ち込まれたことに始まるとされ、戦後復興のシンボルでもあります。
私はもともと沖縄によく足を運んでいたのですが、実は花ブロックに関心を持っていなかったんです。しかし、コロナ禍を経て久しぶりに沖縄に行った際、新しく建てられたホテルなどで「花ブロック」が活用されているのに気づきました。算数を研究しているので、「花ブロック」に見られるような対称的な図形にもともと興味があり、デザイン性の面白さに注目するようになったんです。今では、「花ブロック」は守るべき文化でSDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」に、また耐久性・遮熱性にも優れるエコな建材であることから目標13「気候変動に具体的な対策を」に関連すると考えるようになりました。
ESD教材の可能性を秘める地域素材
そうして実際の授業に取り入れることで、今まで身近にありすぎて意識していなかった児童たちからも、「おじーの家にいったらあったよ」といった発言が自然と出るようになったそう。算数を学ぶうえでも、日常生活につながっていることは大事なことですが、調査をしたところSDGsへの意識が変容したことがわかりました。つまり、身の回りにある価値あるものに気づき、それについてもっと知ろうとし、もっと他の地域にも目を向けようとする意識の変容につながるESD教材として、意義があったことの証拠です。
「花ブロック」は、算数のほかにも社会科や図画工作科などでも題材に成りえます。実際、6年生の社会科の授業で、戦後復興時の沖縄について教える際に取り扱ってもらいました。こうした題材は他の地域にもあるはずで、京都なんてまさに題材の宝庫です。常にいろいろなものに目を配れば、新しい題材となるものを見つけて研究することもできることでしょう。

オンラインで海外の小学校と連携するグローバルな取り組み
一方、国際共同授業研究(グローバルレッスンスタディ)という研究にも取り組んでいます。これからの社会において、教員にもグローバル人材としての資質・能力が求められます。その育成のためのプログラム開発として、各国の教員が協働して授業作りをし、お互いに見せ合い、それについて議論し合う場、プラットフォームを作っています。実際、京女の附属小学校の教員に参加してもらったところ、日本の算数指導をもとにしたアドバイスから、シンガポールの教員が作成した指導案が修正され、授業実践も改善されました。
また、共通の題材で指導案を作るのも面白いのではと、日本とシンガポールの2国間で研究を進めています。なぜなら、同じような題材を教材にしていても、教える学年も指導方法も異なり、お互いの指導方法から新しい発見が見つけられるからです。そこで注目したのが、シンガポールで建築装飾として使われる「プラナカンタイル」。「花ブロック」同様、対称の図形がデザインされていることから、対称図形の単元で題材にした場合は…と指導案を作成しているところです。

「質の高い教育」を共有し、SDGsを達成する
さらに、新しい取り組みとして試そうとしているのが、3カ国以上で、特に途上国の先生方にも参加してもらっての研究です。私はJICAの研修で海外の教員に指導したこともありますが、訪日研修に参加できるのは限られた国だけ。また途上国には、教員の専門性を高める研修制度が十分でない国もあります。だからこそ、オンラインを活用するプラットフォームなら、自国にいながら質の高い教育に触れられるし、その行動がSDGsの4番目の目標「質の高い教育をみんなに」につながると思うんです。この目標達成には、日本の教育の質だけを高めればいいわけではありません。どの国も、世界中の質のよい教育について理解を深め、競争力を持つためにも、良いものをどんどん取り入れていくべきなんです。
これからも検証を重ね、SDGsの達成に役立つ「花ブロック」の教材化、国際共同授業研究ともに、研究を深めていきたいと思います。

インタビューを行って
坂井先生のお話を聞いて、同じ単元でも、学びを習得するための題材は同じものを使わなくてもよい、むしろ多様性にあふれるほうが可能性を広げられるのだと、感じられました。先生自身、大好きな沖縄から題材に気づけたとのこと。そうした背景があるからこそ、教材研究に夢中になれるのかもしれません。しかも研究が、SDGsを実践する次代の担い手育成につながっていくとあれば、挑戦しがいがあります。
またグローバル化が進む社会において、日本の教育の質を高めていくためにも、海外の教育について学ぶ大切さも理解することができました。将来、教員となったあなたが受け持つクラスに、海外にルーツを持つ児童がいたとしたら…?そんな時、児童本人はもちろん、その保護者と適切にコミュニケーションをとるためにも、英語の修得を計画しておくほうがよさそうです。
大学の4年間、教員になるため、採用試験に合格するための勉強はとても大切なこと。それに加えて、教員になった後、自分がどう教育と向き合っていくのかを考えるきっかけになる研究に触れられるなら、大学生活がより充実したものになるはずです。