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ジェンダー教育研究所

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ジェンダー教育研究所連続講座<第3回:2023年11月11日(土)> (終了しました)

テーマ:育児休業制度におけるジェンダー—生産領域と再生産領域のインターフェイスから」—
第1部 ご講演講師: 萩原久美子さん(桃山学院大学 教授)
テーマ: 育児休業制度におけるジェンダー 
               —生産領域と再生産領域のインターフェイスからー
第2部 パネルディスカッション
<パネリスト>
・萩原久美子さん(桃山学院大学 教授)
・表 真美さん (本学発達教育学部教育学科教授)
・黒田義道さん (本学発達教育学部児童学科教授、宗教部長)
・鈴木富美子さん(本学データサイエンス学部データサイエンス学科教授)
<コーディネーター>
・中山まき子(ジェンダー教育研究所特定教授)
開会挨拶:手嶋昭子(ジェンダー教育研究所所長)
閉会挨拶:戸田 香(ジェンダー教育研究所助教)
 
第1部:ご講演<概要> 
<1985年「男女雇用機会均等法」制定に続く、1990年代・・・>
育児休業制度の法整備とその歴史を学び・理解し、未来への加筆修正を行うならば、1991年の同法制定・92年施行(「男女労働者を対象に子どもが1歳になるまで」)から捉えることだけでは不十分である。
まず、第2次大戦後に制定された労働基準法に「産前産後休業等」が配され、前回学んだ男女雇用機会均等法には「母性健康管理措置」等が記されてきた。
ただし、特筆すべき第1歩は全電通で働く女性たちが、4年間にわたる協議・労使交渉を経て、1965年に獲得した「育児休業協約」である。さらに1972年「勤労婦人福祉法」の制定へ、1978年には「男の育児を考える会」が創られ、男も女も育児時間をと声を上げてきた苦難の道筋を経て、1991年に至っている。

また1991年に育児休業法制定後、幾多の改正を経て、日本の育児休業制度の質は向上してきた。当初、正社員だけを対象としていた制度は有期雇用労働者へも拡張され、休業期間の所得保障も給付率25%から最大67%へ、異次元の少子化対策のもと手取100%の保障が目指されている。休業期間の延長、弾力化も図られ、男性の育児休業取得率も徐々に上昇している。
育児休業法施行から30年。私たちはさらに新たな制度の未来を展望すべき時期にある。日本はUNICEFの「国際比較からみた制度としての育児休業」で、対象41カ国中第1位(2021年)と評価される。他方、「保育」への「アクセス・質・価格」では、それぞれ22位、31位と下位に位置する。このギャップにこそ、生産領域と再生産領域のインターフェイスの日本的特徴、労働とケアのジェンダー化過程が埋め込まれているのだ。

日本の育児休業制度の現在の到達点を肯定しつつも、「育児休業がなくても働き続けることが出来る社会」を構想し、未来に向けて加筆修正を試みようと提案する。その「生産領域と再生産領域」というジェンダー視点から、保育制度、児童手当、育児休業の機能の違い、制度間の関係の分析を行うと、育児休業制度には「労働/雇用における男女間の格差」が強く影響を受けており、「女性をケアから解放する」のではなく、「就労から解放してケア責任を負わせる」傾向になりやすい、等。
また、育児休業法は1995年、「家族的責任」の範囲を「介護」にまで広げ、「育児・介護休業法」と改称された。家族的責任やケアは、今や総ての労働者にとって特別な問題ではなくなっている。だからこそ、ケアを前提とした社会への転換が必要であり、「年齢・血縁・婚姻条件等を越えたケア連合」とでも名付けられる社会連帯の再構築構想、あるいは「ケア支援法」等が必要だと提案する。

歴史的な流れの整理、緻密で多面的な分析の提示等により、育児だけでなく、人間のケア全体への視座・思考の広がりが提示された1時間となった。
 
第2部:パネルディスカッション 
第2部では、ご講演いただいた萩原久美子さんに、本学3名の教員が加わり熱い議論が交わされた。
表真美さん(発達教育学部)は、育児休業法が制定される前に3人の子どもを産み育て、最初に務めた企業を辞めざるを得なかったご体験を、さらにご自身の娘さんの現在の育児体験を事例として示し、女性の能力が産・育で制限され封じ込められ続ける現況の問題性を鋭く指摘した。
黒田義道さんは、2年前にご自身が育児休業を取得した体験を紹介し、本学では男性で育休取得者はまだ少ないこと、加えて、自身の休業期間が短か過ぎたことに悔いがあり、次世代への応援として、「お互い様の心・思い」をより強く持ち、産み・育てを支える良質な制度・枠組み創りの必要性を力説した。
鈴木富美子さんは、専門の家族社会学における「ライフコースの累積効果」という観点から、「ポスト・育休」後の夫婦の結婚満足度、人生の過ごし方・迎えが見えてくると指摘した。大量調査からは、育児期男性の人生満足度が100%でも、女性のそれは60%に過ぎず、家族形成初期の段階で女性たちはすでに不満を抱える場合があると指摘した。このように夫婦・カップルで過ごす「時間の質」を捉える研究が増えつつあるという。

「育児休業を取ることが、キャリ上で重石になる。だから、休業中も頑張る。うまくいかないと焦る」などの事態が生じていることは心痛く、育休中の時間までも、企業に吸収されることは許しがたい。
また、育児だけでなく、ヒトの一生には、様々なケアが必要不可欠で求められ、誰1人ケアから逃れることはできない。だからこそ、様々なケアで繋がることができる社会づくりが求められる。
 
  • 2部 パネルディスカッション