PROFILE

文学部 国文学科
池原 陽斉先生
Ikehara Akiyoshi

研究テーマ:飛鳥・奈良時代の文学

2013年東洋大学大学院文学研究科国文学専攻修了、博士(文学)。専門は上代文学、特に『万葉集』の漢字の訓読と、後世への伝来を研究テーマとする。著書『萬葉集訓読の資料と方法』は2018年、第13回全国大学国語国文学会賞を受賞。

 前のめりに生きるばかりでなく、
ときに振り返って考える。 

私たちはどうしても「今」を基準に、「これが普通」と考えがちです。しかし、その「普通」がいつの時代にも「普通」であったとはかぎりません。たとえば、平安時代の婚姻形態は男が女の家に通う「通い婚」でした。さらに平安時代以前、飛鳥・奈良時代の和歌集である『万葉集』を紐解くと、「君が家に我が住坂の家道をも我は忘れじ 命死なずは」という女歌があります。「あなたの家に私が住む—その住坂への家道を私は決して忘れません。この命があるかぎりは」。女が男の家に通っていて、その経験を踏まえて詠んだ歌です。
このように、古典文学は「今、ここ」とは異なる人や社会が、かつてあったことを伝えてくれます。

想像ではなく、根拠に沿って考える。

私が専攻する「上代文学」は、日本文学の中でも、もっとも古い飛鳥・奈良時代の文学です。『万葉集』や『古事記』といった作品が残されています。古い時代の作品ですから、情報は断片的にしか残されていません。たとえていえば、ピースの足りないジグソーパズルのようなものです。残った絵柄から昔を推測できる可能性もありますが、「無理だ」と思うことも少なくありません。
しかし、わからないことを想像で補うのではなく、きちんとわかることから考えていくのが研究です。たとえば、残っている写本や、古代の漢字の字義、あるいは古典文法などにもとづき解明を進めます。文学の研究はとかく感想文的と言われがちですが、ほんとうの研究は、感想文とは異なるものです。演習などの授業でも、「根拠」の大事さを伝えています。

要約と批判を通じて能力を高める。

ゼミでの取り組みのひとつに、論文の読解(要約)と批判があります。要約には、論文の内容をよく理解したうえで整理し、再構成する力が求められます。また批判には、人の意見に耳を貸したうえで、異なる意見を提出する能力が必要です。批判は決して「悪口」ではなく、根拠を伴った対案でなくてはなりません。
たとえば、古代には「雨が降ると男は女に逢いに行けない」という習俗があったと主張する研究者がいます。この主張を否定する研究者もいる。このような意見の相違を受け、結論よりも「根拠はなにか」と考え、批判をおこないます。
ただ、いきなり「要約して批判せよ」では、学生は戸惑います。そこで、まずは私なりに、要約と批判の意義と内容を伝えます。あとは学生とコミュニケーションを取りながら、学生個々の興味・関心に応じた対象で一緒に考えていきます。

社会とつながる国文学科の学び。

昔を知って、考える。国文学科で学んでほしいことです。昔がよいか、今がよいか、考える前に、まずは知らなければはじまりません。「今が絶対」と決めてかかるのではなく、知って、そこから考えることが大事だと思います。
あわせて、文章に敏感になってほしい。国文学科では多くの文章を読みます。執筆の機会も多々あります。人の文章を読み、自ら書く。その中で、悩み、疑問を持ち、感心し、そうして文章は磨かれます。多くの学生が学びの中で、文章をきちんと構成し、論理的に展開する力を身に付けていると実感しています。
社会を相対的に見る力を身に付け、その力を自分自身の文章によって表現できる。そんな国文学科の学びは、社会とつながっていると思います。

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