私は演奏家としても活動していますが、「伝える」のは教育も演奏も同じ。作曲家が遺してくれた楽譜を通じて、曲に宿る思いを伝えることが演奏家の使命だと思っています。 中学生のころ、マルタ・アルゲニッチ(アルゼンチンの世界的女性ピアニスト)が演奏する、R.シューマン作曲の<クライスレリアーナ Op.16>を聴いたとき、彼女のファンになったと同時に、その曲のファンにもなりました。彼女の演奏を通して、曲そのものに強く心惹かれたんです。 さらにドイツでの留学時代、師匠に「あなたの演奏からはトモコ・ドイしか見えてこない」と言われました。「私の演奏を聴いて!」という自我が無意識に出たんだと思います。この経験から、「私の演奏」ではなく「曲そのものの本質」を伝えられるよう心がけています。 歌曲の伴奏やアンサンブル奏者として演奏するときは、曲だけでなく共演者にも寄り添うよう意識しています。感覚を研ぎ澄まし、呼吸のタイミングなど相手の気配を感じることが大切です。