発達教育学部 教育学科 音楽教育学専攻
土居 知子先生



京都市立堀川高校音楽科・京都市立芸術大学・同大学大学院を経て渡独、国立ドレスデン音楽大学大学院、およびマイスタークラスを修了。第38回マリア・カナルス国際音楽コンクール第3位、松方ホール音楽賞、青山音楽賞などを受賞し、演奏家としても活躍。現在、京都女子大学教授、大阪教育大学非常勤講師。

ピアノと恩師との出会いで将来の夢が見えた

私がピアノと出会ったのは4歳のころ。毎日、自宅にあった足踏みオルガンを楽しそうにさわる様子を見ていた両親が、近所の音楽教室のグループレッスンに通わせてくれました。1年後にピアノの個人レッスンに切り替え、そこで出会った先生のおかげで、ピアノの奥深さと楽しさに気付くことができました。そして小学生になると、本格的に音楽の道を志すようになっていました。

歴史ある音楽ならではの“ピアノ教育”

音楽はずっと受け継がれてきたものですから、私も自分が受けてきたピアノ教育や音楽について感じてきたことを、後世に伝えたいと思っています。大学での指導の際にも、意識しているのは「教える」ではなく「伝える」こと。私が伝えたことで、学生たちが何かに気付き、その気付きによる変化が未来につながっていくといいな、と思っています。

伝えて、受けとる教育で自分も成長していく

特に、教育においては“発信・受信”をモットーにしています。“発信”して伝えるためには新しい情報を“受信”して、それらを常に“上書き更新”することが欠かせません。演奏会に足を運んだり、音楽に限らず幅広いジャンルの先生とお話したりすることで新たな発見を得て、自分の糧にしています。そしてまた、それらを学生に伝えて(発信して)います。

曲に込められた想いや本質を伝えたい

私は演奏家としても活動していますが、「伝える」のは教育も演奏も同じ。作曲家が遺してくれた楽譜を通じて、曲に宿る思いを伝えることが演奏家の使命だと思っています。 中学生のころ、マルタ・アルゲニッチ(アルゼンチンの世界的女性ピアニスト)が演奏する、R.シューマン作曲の<クライスレリアーナ Op.16>を聴いたとき、彼女のファンになったと同時に、その曲のファンにもなりました。彼女の演奏を通して、曲そのものに強く心惹かれたんです。 さらにドイツでの留学時代、師匠に「あなたの演奏からはトモコ・ドイしか見えてこない」と言われました。「私の演奏を聴いて!」という自我が無意識に出たんだと思います。この経験から、「私の演奏」ではなく「曲そのものの本質」を伝えられるよう心がけています。 歌曲の伴奏やアンサンブル奏者として演奏するときは、曲だけでなく共演者にも寄り添うよう意識しています。感覚を研ぎ澄まし、呼吸のタイミングなど相手の気配を感じることが大切です。

ピアノの実力が試される「変奏曲」の魅力

私の研究テーマのひとつは「ピアノ変奏曲」。変奏曲とは、“主題”となる旋律がさまざまな方法によって装飾的・性質的に変形されて展開し、その主題と変奏の全体でひとつの楽曲になったものです。ひとつの主題がどんどん変化していくので、聴いていて飽きることなく、とても魅力があります。変奏曲の有名な作品には、W.A.モーツァルト作曲<フランス民謡「あぁ、お母様聞いてちょうだい」の主題による12の変奏曲 KV265(通称『きらきら星変奏曲』)>などがあります。 例えば、ひとつの食材でいかに多様な料理をつくれるかは、料理人の腕にかかっていますよね。変奏曲も同じです。ひとつの主題をいかに多様に展開させられるかが「作曲家の腕の見せどころ」なんです。ピアニストにとっては、主題の展開にしたがってあらゆるテクニックが必要になり、これが「ピアニストの腕の見せどころ」になるでしょう。

“気付き”から得られる学びを大切に

学生さんたちには「さまざまな事柄の変化が察知できるよう、アンテナを張りましょう」と伝えたいですね。日常生活や学問において、変化に気付くことはとても重要です。その変化はなぜ起こったのかという疑問から、本を読んで考えたり、いろんなことを実際に試したりして、学びを深めていくことができるからです。


取材日 2016年7月

土居先生は手の小ささをカバーするため、さまざまな工夫と努力をしたそう。